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名古屋高等裁判所 昭和62年(け)4号 決定

申立人 (名古屋弁護士会所属弁護士) 立岡亘

主文

本件異議の申立を棄却する。

理由

本件異議申立の趣意は、本決定末尾添付の申立人名義の「異議申立書」(写)記載のとおりであるが、その要旨は、原決定の申立人の弁護活動に対する評価は余りにも不相当であつて、合理的裁量の範囲を逸脱したものであるから、これを是正すべく、原決定を取消したうえ新たな報酬支給決定を求める、というのである。

そこで審究するに、所論指摘にかかる原決定は、刑事訴訟費用等に関する法律(以下、「費用法」という)八条二項にもとづくものであるところ、費用法は、国選弁護人に支給すべき報酬額の決定を当該刑事被告事件の難易、当該国選弁護人の訴訟活動の状況、開廷回数等考慮すべき具体的諸事情に精通している受訴裁判所の裁量にゆだねているが(八条二項)、その決定に対し異議等の不服申立を許す旨の規定は勿論のこと、不服申立の方法、時期等これに関する規定を全くおいていないことが明らかであつて、これらの点に徴すると、費用法は、同法八条二項にもとづく決定に対しては、異議等の不服申立はこれを許さないものと解するほかない(なお、費用法八条二項にもとづく決定は、刑事訴訟手続に関連する決定ではあるが、刑事訴訟手続それ自体に関するものではなく、既に当該審級における判決が言い渡された後の段階における付随的手続に関する非訟事件の裁判にとどまるものであるから、右決定については、刑事訴訟手続それ自体に関する規定である刑事訴訟法四二八条二項、四一九条等が適用される余地はないものと解するのが相当である。)。

よつて、本件異議申立は、法の許容しないところであつて不適法であるから、刑事訴訟法四二八条三項、四二六条一項前段に則り、これを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 吉田誠吾 裁判官 鈴木雄八郎 裁判官 川原誠)

異議申立書

申立の趣旨

昭和六二年四月九日、名古屋高等裁判所(刑事一部)がなした国選弁護人報酬決定(国選弁護人報酬を金五八〇〇〇円とする旨の決定)を取消し、新たに相当額の国選弁護人報酬の決定をされたい。

申立の理由

一、異議申立人は、名古屋弁護士会の推薦をうけ、昭和六一年一二月一九日、名古屋高等裁判所(刑事一部)によつて被告人福本四郎についての道路交通法違反被告控訴事件に関する国選弁護人に選任された。

二、異議申立人は、直ちに原審記録を謄写するほか(謄写費用金四四五〇円)、被告人と連絡を取り、同被告人と数回面談し、その控訴に至つた理由(原判決に対する不服の理由等)・原判決認定事実の真偽、被告人の供述調書の正確性等を事情聴取するほか、被告人にて入手可能な証拠資料の収集の指示をなすほか、右謄写記録を検討し、控訴理由の整理・主張の検討をなし、また事件現場の見分、関係者に対する照会等をなすなどして控訴審における立証計画をたて、裁判所に対して証拠申請するなどし、その弁護活動をなしてきた。

三、右国選弁護事件は、昭和六二年四月九日、「控訴棄却」の判決の言渡しがなされ、異議申立人は判決理由の説明と今後の進行等の説明を被告人に対してなすとともに、被告人に対して上告手続の指導をなし、異議申立人の国選弁護人としての弁護活動は終了した。

四、異議申立人は、昭和六二年四月九日、名古屋高等裁判所(刑事一部)に対して、前記国選弁護活動に伴う諸費用(所要経費)を別紙のとおり報告すると共に、かかる所要経費の支出を考慮された相当額の国選弁護人報酬の決定を請求した。

五、しかして、名古屋高等裁判所(刑事一部)は、右請求の日たる昭和六二年四月九日に前記国選弁護事件の国選弁護人報酬として、「国選弁護人報酬を金五八〇〇〇円」とする旨決定し、同年五月八日、所得税を控除した後の金額五二二〇〇円を銀行振込にて異議申立人に支払つた。

そして、この振込の通知を受けて、異議申立人は前記国選弁護事件の国選弁護人報酬の額を初めて知つた。

六、ところで、国選弁護人の報酬決定、すなわち、刑事費用法八条二項の規定に基づき刑事被告事件の受訴裁判所が国選弁護人の報酬の額を決定する作用は、当該刑事被告事件の難易、当該国選弁護人の訴訟活動の状況、開廷回数等を総合的に考慮し、その裁量により右報酬の額を形成的に決定する作用であり(最高裁判所第二小法廷昭和五八年(行ツ)第二七号事件昭和六一年九月八日判決)、その意味では、裁量行為であるにしても国選弁護人の具体的な弁護活動(法廷内外の弁護活動)等の具体的な活動内容を考慮した合理的な裁量でなければならないところ(前記異議申立人の所要費用報告兼請求書にて引用した最高裁判決(昭和二九年八月二四日判決)にも同趣旨が指摘されている)、前記報酬決定については、前記異議申立人の具体的な弁護活動、事件現場の見分、関係者への照会等、当該被告事件の処理、殊に被告人の不服に関する事情聴取等を通じた被告人の弁護人としての活動に要した諸経費金二一六三〇円を控除すると、僅かに金三六三七〇円が実質の報酬額(異議申立人の弁護活動に対する対価)となり、前記の具体的な弁護活動に対する評価としては余りにも不相当であり、合理性を逸脱した報酬決定であり不服である。一般的な国選弁護報酬の低廉の問題点は敢えて問題として提起しないが、少なくとも、前記の最高裁判所判例の立場にたつて国選弁護報酬額の相当性を検討しても本件国選弁護報酬決定は不相当であり是正されるべきものと考える。

よつて、原決定を取り消され、新たな報酬決定をされたい。

別紙

国選弁護事件における所要弁護活動費用報告書兼請求書

当職は、貴裁判所において被告人福本四郎の道路交通法違反被告事件についての国選弁護人に選任され、今日までその弁護活動に当たつてきました。

この間の事実調査等の活動並びに法的検討に要しました所要経費(実費用)として、左記のものがあり、これらは当職において支払をいたしましたので、その報告をなすとともに、これら所要実費用支払の事実を全て考慮され、相当額の国選弁護人に対する報酬決定をせられたく請求いたします(最高裁判所昭和二九年八月二四日判決参照)。

(1)  一審事件記録謄写費用            金  四、四五〇円

(2)  交通費(事件現場往復・裁判所往復)     金  六、三八〇円

(3)  通信費(被告人・隣地耕作者・医師等との連絡)金  一、〇七〇円

(4)  資料入手費用(フイルム代・現像代等)    金  五、三二〇円

(5)  書面作成費用(書面コピー代を含む)     金  四、四一〇円

〔総計金額 金 二一、六三〇円〕

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